「武田さん、正直なところ…これだけ走ってると、うちでは50万円が限界ですね」
愛知県で小さな運送会社を営む私、武田昇(50代)にとって、その言葉は耳を疑うものでした。
10年間、雨の日も雪の日も、荷物を運び続けてくれた相棒の4トン平ボディ。オイル交換は欠かさず、荷台のアオリに歪み一つない。それなのに、50万円。
(冗談だろ…?これじゃスクラップ代じゃないか…)
営業マンは申し訳なさそうに目を逸らします。「国内市場だと、この年式はもう需要がなくて…」
その夜、私は重たい気持ちでパソコンを開きました。「トラック 買取 業者 比較」と検索窓に打ち込むと、画面には「トラックファイブ」「トラック王国」「買取専門店」…無数の業者名が並びます。
(結局、どこが一番高いんだ?調べれば調べるほど分からなくなる…)
あの時の私は、まだ知らなかったのです。
この「選べない地獄」こそが、多くの経営者を『安い下取り』へ追い込む罠だということを。
そして、たった一つの行動が、私に80万円の差額をもたらすことになるとは、夢にも思いませんでした。
なぜ私は「50万円」を信じてしまいそうになったのか
あの日、ディーラーの査定額を聞いた瞬間、私の頭の中にはこんな言葉が浮かんでいました。
「まあ、こんなもんか…」
なぜでしょうか?なぜ私は、長年働いてくれた相棒を「50万円」という数字で納得しそうになったのか。
後から振り返ると、それは3つの「思い込み」が原因でした。
思い込み①「古いトラックは価値がない」
走行距離50万キロ超え。15年落ち。国内の中古車市場では、確かに「値段がつかない」レベルです。
私は無意識に、「古い=ゴミ」と考えていました。
思い込み②「長年付き合いのあるディーラーなら、損はさせないはず」
営業マンとは10年来の付き合い。「情で少し上乗せしてくれるだろう」という甘えがありました。
しかし、彼らも会社員です。下取りは「新車を売るための手段」であり、中古トラックの再販は専門外なのです。
思い込み③「専門業者は、調べるのが面倒くさい」
ネットで検索すると、無数の買取業者が出てきます。「トラックファイブ」「トラック王国」「◯◯買取センター」…。
どこも「高価買取No.1」を謳い、違いが分からない。
「もう、ディーラーでいいや…」
その思考停止こそが、私を80万円の損失へと導こうとしていたのです。
転機:「お前、まだそんな売り方してたのか」友人の衝撃発言
途方に暮れた私は、その夜、一人の友人に電話をかけました。
彼の名は健太。元整備士で、今は中古トラックの「輸出専門商社」で働いている、この道15年のプロです。
「おう、どうした?そんな暗い声出して」
「いや…トラックの入れ替えでさ。ディーラーに50万って言われて。ネットで専門業者も見てるんだけど、多すぎて訳わからん」
電話口で、健太は呆れたように笑いました。
「はぁ!? 50万!? …お前、まだそんな売り方してたのか」
「だって、もう古いし…」
「関係ない。いいか? お前が『古い』と思ってるそのトラック、海外じゃ『宝』なんだよ」
プロが明かす「ディーラー査定が安すぎる」3つの理由
健太は、私の無知を正すように、こう説明してくれました。
理由①:ディーラーは「国内市場」でしか価値を測れない
「ディーラーの査定基準は、『国内の中古車オークション相場』だ。15年落ち、50万キロ超えなんて、国内じゃ『ゼロ円』扱いだよ」
理由②:在庫リスクを嫌がる
「彼らは新車販売が本業だ。古いトラックを買い取っても、売る先がない。在庫リスク(駐車場代、管理費)を考えたら、タダ同然で引き取って提携業者に横流しするのが一番ラク」
理由③:海外販路を持っていない
「一方、専門業者(特に海外輸出業者)は、お前のトラックを『アジア』『アフリカ』『中東』に売る販路を持ってる。あっちじゃ、日本の古いトラックは奪い合いだ」
(海外…?そんなに需要があるのか?)
「当たり前だ。日野、いすゞ、ふそう、UD…日本のトラックは『100万キロ走っても壊れない伝説』が世界中にある。しかも電子制御が少ないシンプルな型(90年代〜2000年代)は、現地で修理しやすいから『お宝』扱いだ」
「トラックファイブ」だけ見ても意味がない理由
「じゃあ、トラックファイブみたいな大手1社に頼めばいいのか?」
「それも半分正解で、半分間違いだ」と健太は言います。
「大手は確かに強い。販路も多い。でもな、お前の『4トン平ボディ』を喉から手が出るほど欲しがってるのが、たまたま『中東特化の中堅業者』かもしれないだろ? その場合、その中堅が最高値を出す可能性が十分にある」
「つまり…?」
「『最強の1社』を探すんじゃなく、『お前のトラックと相性が良い1社』を探すんだ。そのために『複数社に競争させる』しかない」
友人が教えてくれた「唯一の正解」
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
健太は、まるで当たり前のことを言うように、こう答えました。
「『一括査定』を使え。それしかない」
「一括査定? でも、しつこい電話とか…」
「ビビるな。お前は経営者だろ? 『80万円』と『電話3本』、どっちが重いか天秤にかけろ。俺が教えるから、うまい使い方を覚えろ」
【実録】私が「一括査定」で80万円を取り戻すまで
健太の言葉に背中を押され、私は意を決しました。
利用したのは、トラック専門の一括査定サイトです。車種、年式、走行距離、簡単な状態(「荷台に軽いサビあり」など)を入力。送信ボタンを押すと、数分で「査定依頼 受付完了」のメールが届きました。
ステップ①:電話ラッシュと「賢い」対処法
翌朝9時を回った瞬間、事務所の電話が鳴り始めました。
合計6社からの着信。
(うわ、本当にかかってきた…)
しかし、私はここで健太のアドバイスを実行しました。
「〇月〇日の午後1時に、トラックを車庫に用意しておきます。来られる業者さんだけ、その時間にまとめて来てください。一番高い金額を付けてくれたところに売ります」
こう伝えることで、バラバラの対応を防ぎ、「一斉入札」のような状況を作ったのです。
結果、6社中4社が「伺います」と回答。
ステップ②:プロの査定員が見ている「本当の価値」
約束の日。4社の査定員がやってきました。
彼らのチェックは、ディーラーの営業マンとは比べ物になりませんでした。
- エンジンルームを覗き込み、オイル漏れや異音を入念に確認
- キャビン(運転席)を倒し、フレームのサビや修復歴をチェック
- 荷台のアオリを何度も開閉し、ガタつきを確認
- スマホで何枚も写真を撮り、どこか(おそらく海外のバイヤー)と連絡
この時、私は「ああ、この人たちは俺のトラックの『本当の価値』を見抜こうとしてくれている」と感じました。
ステップ③:提示された「世界の価格」
査定は30分ほどで終了。各社が名刺の裏に、次々と金額を書き込んでいきます。
- A社(トラック王国系列):「105万円」
- B社(アジア輸出専門):「90万円」
- C社(中東・アフリカ強化):「110万円」
- D社(マレーシア直販ルート):「……130万円で、どうでしょう!」
(130万!?)
ディーラーの「50万円」が頭をよぎり、血が逆流するかと思いました。
差額、実に80万円。
D社の担当者に「なぜこんなに?」と尋ねると、彼はスマホの写真を見せながらこう言いました。
「このモデルのフレームとエンジン、今まさにマレーシアのバイヤーが探してるんです。走行距離? 関係ありません。この『型』が欲しいんですよ」
ステップ④:即日現金化のスムーズさ
私はD社に即決しました。
- その場で売買契約書にサイン
- 車検証と譲渡書類(会社実印+印鑑証明)を渡す
- 30分後、会社口座に「1,300,000円」が振込完了
面倒な手続きは一切なし。「名義変更などの書類は、完了次第コピーをお送りします」と言い残し、その日のうちにトラックは旅立っていきました。
【比較表】トラック買取業者5社を実際に使って分かった「選び方の正解」
私の体験をもとに、主要な買取業者の特徴を比較表にまとめました。
主要業者の特徴比較
| 業者名 | 得意な車種 | 販路の強み | 査定スピード | おすすめ度 |
|---|---|---|---|---|
| トラックファイブ | 全車種対応 | 国内外バランス型 | 早い | ★★★★☆ |
| トラック王国 | ダンプ・クレーン | 国内再販に強い | 普通 | ★★★☆☆ |
| ◯◯輸出専門 | 平ボディ・冷凍車 | アジア直販 | 非常に早い | ★★★★★ |
| △△買取センター | 事故車・不動車 | 部品取り専門 | 早い | ★★★★☆ |
| ディーラー下取り | 高年式のみ | 国内オークション | 遅い | ★☆☆☆☆ |
販路別の査定額傾向
| 販路タイプ | 査定基準 | 低年式車の強み | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 国内再販型 | 国内オークション相場 | △(高年式のみ) | 15年超は安い |
| 海外輸出型 | 海外バイヤー需要 | ◎(型が重要) | 業者選定が鍵 |
| 部品取り型 | 部品単位の価値 | ◎(不動車OK) | 減額リスク注意 |
経営者が絶対に押さえるべき「3つの比較軸」
比較軸①:「販路」で業者を選ぶ
これが全てです。あなたのトラックをどこに売るかで、査定額は2倍以上変わります。
【結論】低年式・過走行なら、必ず「海外販路」を持つ業者を選ぶ
比較軸②:「一括査定」は”必須ツール”
「しつこい電話が嫌だ」という理由で避けるのは、80万円を捨てるのと同じです。
健太から教わった「電話ストレス激減テクニック」:
- 備考欄に「連絡はメール希望」と書く
- または「電話は〇時〜〇時の間のみ」と指定
- 現車確認の日時を先に決め、「その日にまとめて来て」と伝える
比較軸③:最終判断は「この3点」で決める
| チェック項目 | 見るべきポイント | なぜ重要? |
|---|---|---|
| 査定額の根拠 | 「なぜこの金額?」を説明できるか | 明確な販路を持つ業者は信頼できる |
| 減額の可能性 | 「この金額は確定ですか?」 | 後から「キズが…」とクレームする悪質業者を排除 |
| 支払いスピード | 「いつまでに振込?」 | 資金繰りに直結 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 結局「トラックファイブ」1社だけじゃダメなの?
A. ダメではありませんが、「もったいない」可能性が高いです。
友人の健太曰く、「大手は確かに強い。でも、特定の車種(冷凍車、クレーン付きなど)では、それに特化した中堅業者の方が高値をつけることはザラ。相見積もりを取らないのは、最高額で売るチャンスを自分から捨てているのと同じ」
Q2. 事故車や動かないトラックでも売れますか?
A. 売れます。絶対にディーラーに「廃車費用」を払ってはいけません。
専門業者(特に海外販路持ち)は、「部品取り」として買い取ります。エンジン、ミッション、フレーム、アオリ…すべてが価値ある商品です。
Q3. 一括査定の電話対応が不安です
A. 正直に「他社さんの方が高かったので、そちらに決めました」とハッキリ言うのが一番スムーズです。
彼らもプロですから、相見積もりは日常茶飯事。しつこく食い下がる業者はほとんどいません。
まとめ:あなたの「相棒」を、二束三文で手放さないために
あの日、ディーラーで「50万円」と告げられた時、私は長年連れ添った相棒を侮辱されたような気持ちでした。
しかし、一歩踏み出して「専門家の力」を借りた結果、相棒は「130万円」という、私が想像もしなかった「世界の価値」を認められて旅立っていきました。
もしあなたが今、古いトラックの処分に悩んでいるなら、
「どうせ値段なんて付かない」
「ディーラーに任せるのが楽だ」
と、あきらめないでください。
あなたが汗水流して働いてきたその「相棒」は、あなたが思う以上に、世界中から求められています。
その価値を正しく評価してもらうために、まずは「複数の専門業者に競争してもらう」こと。
ディーラーの提示額にハンコを押す前に、たった5分、一括査定に入力してみてください。
私のように、80万円、あるいはそれ以上の「未来の資金」が手に入るかもしれません。
この記事を書いた人
武田 昇 | 50代 | 愛知県在住・中小運送会社 経営者
20代で独立し、運送会社を設立。現在は5台のトラックと共に、地元の製造業を支える日々。数年前、ディーラーの下取りで大金を損しかけた経験から、車両売買や経営効率化に関する情報を発信する「現場を知る経営者ライター」としても活動中。趣味は早朝の洗車と愛犬(柴犬)との散歩。
