社長の田中は、目の前のリース契約書を前に、深くため息をついた。「5年か…あっという間だったな」。しかし、感慨に浸る間もなく、頭をよぎるのは「リースアップ後のトラック、どう処理するんだ?」という重い疑問符だった。これまで数多くのリース契約をこなしてきたベテランの田中だが、今回は少し状況が違う。残価で買い取り、すぐに買取業者へ売却する予定だ。しかも、どうやら売却益が出そうだという。
「残価で買い取って、すぐに売る…これって、普通の固定資産の売却とは違うのか?」「簿価はいくらになるんだ?」「売却益が出たら、どう仕訳すれば税金で損しないんだ?」
頭の中は疑問符だらけで、まるで出口のない迷路に迷い込んだようだ。経理担当の佐藤に聞いても、「過去に例がないので、慎重に調べます」という返事。ネットで検索しても、一般的なリース契約の終了処理は出てくるものの、残価買取からの即時売却という、この特殊なケースにドンピシャの情報は見つからない。焦燥感が募る。「もし間違った仕訳をして、後で税務署から指摘を受けたらどうなる?」「余計な追徴課税なんて、会社の体力じゃ耐えられないぞ…」。夜、ベッドに入っても、仕訳帳の数字が頭の中でぐるぐると回り、なかなか寝付けない日が続いていた。「なぜ私だけがこんな複雑な問題に直面するんだ…」と、孤独感すら感じ始めていた。
多くの経営者や経理担当者が、リースの「残価」という概念に惑わされ、この二段階の取引を一つの売却として捉えがちです。しかし、それは水漏れした水道管にテープを貼るようなもの。一時的に塞がったように見えても、内部では腐食が進み、いつか大惨事になりかねません。根本的な解決は、一度水を止め、古い管を新しい管に交換するように、この取引を「リース資産の買い取り(固定資産計上)」と「固定資産の売却」という二つの明確なステップに分けて、それぞれ正しい仕訳を行うことなのです。
では、具体的にどのように仕訳を進めれば良いのでしょうか。税務リスクを回避し、会社の利益を最大化するための確実なステップを見ていきましょう。
ステップ1:リース資産を「残価」で買い取る際の仕訳
まず、リース会社からトラックを買い取り、自社の資産として計上します。この時点での仕訳は、残価を「車両運搬具」として計上し、その対価を未払金などで処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 
|---|---|---|---|
| 車両運搬具 | ○○○円 | 未払金(現金預金) | ○○○円 | 
ポイント: この時、残価が車両の帳簿価額(取得原価から減価償却費を差し引いた額)となります。消費税の取り扱いにも注意が必要です。残価部分には消費税がかかるのが一般的です。
ステップ2:買い取ったトラックを「買取業者」へ売却する際の仕訳
次に、自社資産となったトラックを買取業者へ売却します。ここで売却益が発生するかどうかが決まります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 
|---|---|---|---|
| 現金預金 | △△△円 | 車両運搬具 | ○○○円 | 
| 固定資産売却益 | □□□円 | 
ポイント: 「車両運搬具」の金額は、ステップ1で計上した残価(簿価)です。売却価格が簿価を上回れば「固定資産売却益」が、下回れば「固定資産売却損」が発生します。売却価格には消費税がかかりますので、別途「仮受消費税」を計上します。
この二段階の処理を正確に行うことで、田中社長の頭を悩ませていた税務リスクは劇的に軽減されます。曖昧な処理による追徴課税の不安から解放され、会社が手にした売却益も正しく財務諸表に反映されるため、経営判断の精度も向上します。リースアップは、単なる契約の終わりではなく、新たな利益を生み出すチャンスなのです。正しい知識と手順を踏めば、複雑に見える経理処理も、会社の成長を支える確かな一歩へと変わります。もう、夜中に仕訳帳の数字に悩まされることはありません。自信を持って、次の経営戦略へと進んでいきましょう。
